へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
この手の話題は今後、自ら首を突っ込まないようにしようと再びシュエルに目を戻して、話題を変えつつ少し歩いていくと獣舎が見えてきた。
天井が高い造りになっており、通気性がよさそうな多数の丸窓が太陽の光を反射させている。
獣舎を前に、魔獣の気配すら感じられないこの場所に本当に魔獣がいるのか疑問でしかなかった。
「魔獣ってこんなに大人しいものなの?」
「いや、普通だったら、こんな大人しくはないんだけど……」
ミアが指摘した異変にシュエルは困った表情を浮かべつつ、獣舎の中へと続く頑丈な扉を開けた。
中へと入ると獣臭さは一切しなく、頑丈な檻の中に入っている魔獣達が息を潜めていた。
スノウベアを床に下ろして一周ぐるりと見渡すと、檻の中の魔獣はどこもかしこも藁の敷き詰められた寝床に身を隠し、こちらを見つめる目はどこか怯えていた。
「魔力を持つ俺ら獣人に怯えて一向に懐かないんだ。魔獣騎士なら本来心を通わせる能力があるのに、ここにいる奴らは皆心を閉ざしちまってる」
「その原因って……」
「ここに来た召喚士が、魔獣を見捨てるように契約を無理やり破棄したのが原因だな。お陰で世話をするのにも一苦労だよ」
やっぱり、とミアは召喚士のバッチをきつく握りしめた。
心を許して召喚を認めてやってきた魔獣達にとっての契約破棄とは、相棒となる召喚士に不必要だと突きつけられたようなもの。そして、契約破棄は互いの命にも直結するような危険極まりない行為を認めた相手にされ、恐怖を植え付けられたのだ。
端から信頼関係を踏みにじられ危うく殺されかけ、おまけに自分達よりも強い獣人を前に本能的に怯え、傷ついた心を癒す余地すら与えられない。ミアはこんな過酷な状況下で、よく耐えたと労りたい気持ちでいっぱいになった。