へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
確かに魔獣を相手にするのは恐ろしい。仮に自分に懐かなかった場合、襲われる危険性も少なからずある。
だが召喚士として己と契約を結ぶ以上、相手の心に寄り添い、例え言葉が通じなくとも共に歩む相棒相手に、そんな無下にするような行為は召喚士として失格だと、怒りが滲む。
あれだけ魔獣を相手にする事に不安と恐怖で支配されていたミアだったが、いざ魔獣達を前にしてその気持ちはどこにもなかった。
「あっ、ミア!そんな迂闊に檻に近づいたら危ないよ!」
身体は勝手に魔獣がいる檻の前へと動いていて、ミアをじっと見つめるブラックダイアモンドのような煌めきを秘めた瞳と目が合った。
額に一本角を生やした一匹の兎――アルミラージが近づいてくるミアに威嚇するように角を向ける。
気性が荒いアルミラージは、自分よりも大型の魔物に対しても攻撃を仕掛けてくる厄介な性格の持ち主。そんなアルミラージを前にしてもミアの恐怖心は何処にもなかった。
檻の前でしゃがみ込み、瞳を離すことなく思いを口にする。
「怖い思いさせてごめんね」
「もきゅっ」
「えっ?」
ミアの言葉に反応するかのように、寝床から飛び出してきたアルミラージは、角を向けて突進して来る。
危険を察知したシュエルが檻から遠ざけようと、ミアの腕を引こうとするが、アルミラージの俊敏な動きに間に合うわけもない。
「っ……!」
シュエルの短い悲鳴が獣舎に微かに響き、その声に反応するように魔獣達が小さくざわめいた。緊張感の走った空間だったが、ミアの柔らかい弾んだ声が包み込む。
「もふもふ〜!!あなた、すっごく気持ちのいい毛並みしてるのね!それに立派な角!一日に一回は磨いて手入れしましょうね!」
「あれっ……?」
シュエルの拍子抜けた声に振り返ったミアは、檻の中で気持ちよさそうに目を瞑る、アルミラージの額を撫でていた。