へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
風に晒される度に、彼の唇が触れた箇所が疼く感覚を振り切って、ようやくやって来た怒りに任せて言葉を吐き出した。
「〜〜っ!団長の意地悪っ!」
「んだと……?」
「魔獣達の水分補給用の水汲みを命じます!」
勢い任せにそう言って立ち上がると、ミアはズカズカと訓練を続ける皆の元へと向かう。振り返らなくとも、リヒトが出された命令によって動き出したのが、彼の舌打ちで分かった。
暫く不在にしていたミアの姿を見つけたフェンリルがやって来て、顔色を伺う。
『どうした。随分と顔が赤いな』
「何でもないの!」
見られたくないと顔を逸らして作業に取り掛かるしかないミアに、フェンリルはやれやれと首を振る。
『まあいい。訓練の事だが――』
「もう!訓練なんて懲り懲りよ〜〜!!」
何も知らないフェンリルに八つ当たりするように叫ぶミアの声は、訓練をする騎士や魔獣達の動きを一瞬だけ止めた。
怒りと恥ずかしさで少々荒々しくなったミアを前に、フェンリルはどこか楽しそうな表情を浮かべ、それがリヒトの挑発的な笑みにそっくりで、またしても顔を赤く染まる。
こうして初めての実践訓練は、ミアの様子がおかしいまま日が暮れるまで続いていったのだった。