叶わぬ恋ほど忘れ難い

 平日の夜は、夕飯時が過ぎると一気に店内が静かになる。このあと、真夜中ちょうどの閉店まで、こんな状態が続くはずだ。
 たまに残業帰りらしいくたびれた人や、暇を持て余してスウェット姿で立ち読みに来る人がいるくらいだ。

 本日の夜番、副店長の月島さんは、レジカウンターの奥にあるデクスで、店長と一緒にパソコンを覗き込んで、セールや高価買取品の話をしていたし、いずみんは商品化した大量の文庫本とボーイズラブコミックスを持って、品出しと掃除に勤しんでいる。
 わたしはレジカウンター内で、ゲームソフトの商品化をしていた。

 ソフトのバーコードを読み込み、POS――金額や数量などの情報を収集するシステム――に登録してから、ケースに貼る中古品用のバーコードシールを印刷する。
 それをアルコールで消毒したケースに貼ったあとで、研磨機からディスクを取り出す。ディスクは品番を書いた不織布の袋に入れ、カウンター裏の棚にしまうことになっている。
 防犯のため、ゲームソフトやCD、DVDは、空のケースを店内に並べるのだ。

 品番を書き、ディスクを不織布袋へ。この数ヶ月ですっかり慣れた作業に没頭していると、突然左耳が掴まれ「ひゃあ!」と情けない悲鳴を上げた。

 見ると副店長の月島さんが、細い一重のつり目を目一杯開き、こちらを覗き込んでいる。どうやら店長との話は終わったらしい。

「びっ……くりした、月島さん、どうしたんですか?」

 聞くと月島さんは「うーん」と低く唸った。

「いやね、軟骨のピアスを直接見るのは初めてだから、どうなってるのかなって」
「耳たぶのピアスと同じですよ」
「いや違うでしょ、骨に穴を開けるわけだし。それに普通の耳たぶのピアスより太くない?」
「骨を突き破るには、細いピアスじゃ頼りないのかもしれませんね」

 平然として言うと、月島さんは「うへぇ」と顔をしかめる。

「崎田さんって度胸あるね。一人で旅していただけある。ねえ、ちょっとまじまじ見てもいい? 軟骨ピアス」

 断りを入れずとも、すでにまじまじ見ているのに。くすくす笑いながら了承すると、月島さんはさらに顔を寄せ、耳の裏までじっくり観察した。

「月島さんの奥さんも、ピアスをいくつか付けていましたよね。奥さん、耳たぶ以外に開いていないんですか?」
「うん、うちのは耳たぶだけ。四つかな」

 言われて、何度か来店した月島さんの奥さんの姿を思い出す。
 あれ、四つだけだっけ、と思ってしまうのは、彼女が大きくて派手なピアスを付けていたからだろう。たしか三連のイヤーカフも付けていたはずだ。それで沢山付けていると錯覚してしまったのだろう。


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