叶わぬ恋ほど忘れ難い
だからわたしは、店長が差し出したコンビニ袋を押し返し、自分のお弁当箱を引き寄せた。
「いただけませんし、もうあげませんよ」
言うと、店長は特に気にすることもなく「やっぱりだめかぁ」と楽しそうに笑った。
そして「崎田邑子特製弁当を食べたら、疲れも吹き飛ぶと思ったんだけどなあ」なんて一言を付け加える。
特に深い意味もないだろうけど、その言葉は、ひとくわたしを喜ばせ、ひどくわたしを傷付ける。
わたしだって、できることならこの人に手料理を振る舞いたい。けれどそれは許されないことだから、痛みをじっと耐えるしかない。
この人は、天然のタラシだと、心から思う。
ただでさえ整った顔をしていて、身長も高く、逞しい身体付きで、異性の憧れの対象になりやすいのに、この人は誰に対しても優しく、穏やかな笑みを振り撒く。
店長としての仕事ぶりは真面目なのに、仕事が終わればスタッフルームで、男性スタッフたちと子ども向けのカードゲームに興じ、少年のようにきらきらした顔で笑う。
そのため、奥さまスタッフたちからはまるで息子のように、男性スタッフたちからは兄のように思われ、女性スタッフたちからは好意を寄せられている。
この間は学生バイトの亜紀ちゃんが、店長からノートパソコンをもらったと言って、頬を赤らめていた。
どうやら大学でレポートを書くのにパソコンが必要なのでバイト代を貯めていると話したら、店長が以前使っていたノートパソコンをくれたらしい。
お古とはいえ高価なものだ。もらえないと断ると、店長はいつものように穏やかに笑って「じゃあ俺に、パソコンが欲しいからバイトをしているなんて言うべきじゃなかったね。ちょうどパソコンを買い替えて、処分を考えていたんだから。まあ、処分の手伝いだと思って、気軽にもらってよ」なんて言ったそうだ。
亜紀ちゃんはノートパソコンをもらい、その旨をわたしに話しながら「性格もイケメン過ぎる……!」と言って長机をたたいた。
「性格もイケメンじゃだめなの?」わたしが問うと、亜紀ちゃんは赤い頬のままこちらを睨みあげる。
「あのですねえ崎田さん、私はまだ十九歳で、子ども同然なんです。まだよく世間も知らないのに、あんな見た目も中身もイケメンな人に憧れたら、この先大変だと思うんですよ。最近は特に、同級生の男の子たちがめちゃめちゃ子どもに見えて困っているのに」
「あはは、そうなんだね」
「そうです。私は誰からも人気のイケメンなんて好きになりたくないんです、私だけに優しい、ほどほどの容姿の人が良いんですよ……!」
亜紀ちゃんの主張を聞き、笑いながら「そうだね」と同調したけれど、わたしはどこかほっとしていた。この様子だと、亜紀ちゃんは店長にアプローチすることはないだろう。
そんなことを考えて、わたしはわたしを軽蔑した。
何の権利も持たないわたしが、一丁前に嫉妬して、誰かが誰かを好きになることを、不快に思うなんて。