叶わぬ恋ほど忘れ難い

恋に傷つき続けなければならない


 八月に入り、勤務時間が夜番でほぼ固定された。
 夜に入っていたパートの奥さまが、お子さんの夏休みの間朝の勤務を希望したからだ。

 夕方五時に出勤して、入れ替わりで帰って行く朝番のスタッフたちに「お疲れ様です」を言って見送る最中、最後尾を歩いていた安住美佳ちゃんが足を止め、踵を返してレジカウンターに戻って来た。
 どうやらカウンター裏の棚に、ボールペンを忘れたらしい。それをポケットにしまうと、彼女はふんわりとしたボブの髪を揺らし、再びレジカウンターから出て行く。

 擦れ違いざま、彼女はギロリと鋭い視線をわたしに向けたので、わたしは頷いて「お疲れさまです」と声をかけた。

 今日は夕礼がなかったため、連絡ノートに目を通していると、今の様子を見ていたらしい武田さんがやって来て「大丈夫?」と問う。

 武田さんは長く働いているベテランスタッフの男性で、姉妹店からの勤続は十年だという。真面目で堅実な仕事ぶりを評価され、新店舗のオープニングスタッフに選ばれたらしい。
 大柄で、人のよさそうなたれ目と温かい声色の彼は、心優しい森のくまさんだ。

 そんな森のくまさんの問いに「大丈夫ですよ」と答えて笑った。どうやら彼女の鋭い視線のおかげで、仲が悪いと思われているらしい。

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