叶わぬ恋ほど忘れ難い
退勤後、コンビニに寄ってから、店にほど近い住宅街を車で進む。
細く入り組んだ道に苦労しながら、一軒の家の前で車を停めると、すぐに玄関先に明かりが灯り、住人が顔を出す。
深夜零時半過ぎの訪問だというのに、住人――安住美佳ちゃんは「早かったね」と出迎えの言葉をかけ、わたしを家に招き入れた。
「十一時の時点で客足が途絶えて、武田さんが二、三レジを速やかに閉めたからね」
零時の閉店と当時に一レジも閉め、勤務時間の零時半まで後片付けや品出しをし、なんならちょっと掃除もして、退勤時間ちょうどにタイムカードを切ったのだった。
こういうことはたまにあるけれど、予定がある日は助かる。
わたしの説明を聞いた彼女――あずみんは、きちんと玄関を施錠し、「さすが我らの武田さん」と先輩を称賛した。
「金原くんとわたしも品出しと掃除を頑張ったから、明日見てみてよ」
「邑子は馬鹿なの? 私明日休み」
「そうでした。あ、はいこれお土産。飲み物とプリン」
「やるじゃん、邑子のくせに」
「あとわたしのお夜食」
「太るよ?」
「でも休憩中に食べてから、寝て起きるまで身体がもたない」
「太るよ?」
「いいよ、太るよ」
ふたりで良い合い、くすくす笑いながら二階にあるあずみんの部屋に向かった。
店のスタッフたちには、わたしたちは仲が悪いと思われているけれど、そんなことは全くない。
あずみんといずみん、そしてわたしは同い年で、勤務を始めてすぐに仲良くなった。でもあずみんは運転免許を持っていないから、バス通勤がしやすい朝番の固定で、わたしは夜番に入りがちだから、店で親しく話す機会が少ないのだ。
加えてあずみんは言葉をオブラートに包むということを忘れがちだ。若い頃やんちゃだったというご両親やお兄さん、男性ばかりのいとこたちの中で育ったためらしいが、本人は口の悪さをとても気にしていて「外では極力しゃべらない」とのこと。
そのせいで仕事中は無表情でいることが多いけれど、わたしから見ても他のスタッフたちとの仲も良好だし、大丈夫そうだ。
けれどいずみんやわたしのように親しい相手と接するときは、素が出て鋭い視線を向けてしまう。これは気を許している証拠なのだけれど、それを知らないみんなが、わたしたちの不仲を疑っても仕方ないだろう。