叶わぬ恋ほど忘れ難い
その日の二十三時過ぎ。お客さんがいなくなったタイミングで、亜紀ちゃんが買い取りのレシートを手に、にやにや顔で近付いてきた。買取レシートは買取責任者と確認者の二名のサインが必要だからだ。
「で、金原さんとはどうなんですか?」
ここ数時間、彼女がずっと詳細を聞きたがっていることは気付いていた。何にもないのに、と苦笑しつつ、この勘違いは喜ばしくもある。
店長への恋心が、外に漏れていない証拠だ。
「何にもないよ、ただのお友だち」
「でも金原さんはそうは思っていないかもしれませんよ?」
「ないない」
受け取った買取レシートにサインをして返すと、亜紀ちゃんは「えー」と納得していない声を出した。
「でもぶっちゃけ崎田さんってモテますよね」
そして唐突に、変な質問をしてくる。
「わたしが? まさか」
「えー、罪深いですねえ。密かに崎田さんに片想いをしている人たちも、崎田さんのその平和な微笑みに振り回されてますよ、きっと」
「うん?」
亜紀ちゃんの言っていることがよく分からなくて首を傾げると、彼女は深いため息を吐いて一レジに戻って行った。