叶わぬ恋ほど忘れ難い
わたしは恐かった、怯えていた
八月も終盤に差し掛かったある日の午後。
珍しく朝番で入っていたわたしは、十五時過ぎに店長が出勤すると、武田さんと一緒にアダルトコーナーに籠ることになった。
レジカウンターの裏にあるアダルトコーナーは「十八歳未満立ち入り禁止」ののれんをくぐらないと行けない。成人向けの雑誌や漫画、DVDやゲームが並んでおり、購入するときはお腹の高さにある小窓から、商品やお金のやり取りをする。
レジカウンターから見る小窓は、棚やパーテーションに囲まれたパソコンデスクの近くにあるから、正面の売り場にいるお客さんには、アダルトコーナー側の小窓に誰がいても、絶対に見えないだろう。
そんなアダルトコーナーに武田さんと一緒に足を踏み入れたのは、品出しのためだ。
お客さんの心理としては、スタッフや他のお客さんが大勢いる空間で「今夜の彼女」を選びたくはないだろう。できれば一人でゆっくり選び、購入後はそそくさと帰りたいはずだ。
だからアダルトコーナーの品出しは、速やかに行うに越したことはない。
買い取った商品の品出しなら、お客さんがいないタイミングでさっと中に入り、一分程度で戻ることができるし、なんなら閉店後にゆっくりとすることができる。
ただし今日の品出しは、段ボール二箱分もある新品の商品だ。如何せん時間がかかる。
うちの店はリサイクルショップだけれど、メーカーさんから新品のゲームなどを仕入れている。その中のひとつが成人向けのDVDであり、それが先ほど届いたのだ。
その中のほとんどが新作の商品であり、それを求めてやって来るお客さんもいるかもしれない。それ故の、二人体制での品出しだった。
裸体、もしくは裸体同然の恰好をした女性が映るDVDのパッケージを、盗難防止の透明ケースに入れ、各メーカーの棚に素早く並べていく。発売から少し時間が経った商品は揃えて、倒れないようプラスチックの仕切りを棚に差し込んだ。
武田さんも同じようにテキパキと、少しマニアックな嗜好のDVDを並べ、あっという間に作業を終えた。
表の売り場に出て、空になった段ボールを潰していると、隣で武田さんが深く息を吐いた。
「崎田さん、平気なんだね」
見上げた武田さんは、苦笑している。耳が少し赤いような気がする。大柄で人のよさそうなたれ目をした森のくまさんは、思った以上に純粋な人だったらしい。
「正直、崎田さんが品出しを買って出てくれたとき、ぎょっとしたんだ。若い女の子は嫌だろうなって思ったし……」
「平気ですよ。女体なら自分ので見慣れていますし」
「えー……そういうもの……?」
「まあ、綺麗な女優さんと比べられるようなものではないですけどね」
思ったことを素直に言っただけなのに、森のくまさんは頬まで真っ赤にして、潰した段ボール箱をバックヤードに運んで行った。