叶わぬ恋ほど忘れ難い
夕方五時に勤務が終わり、出勤して来た夜番のふたりに引き継ぎをしてから、武田さん、絵衣子さんとスタッフルームに引き上げる、と。
今日はお休みのはずの副店長、月島さんがいた。店指定の黒いエプロンは着けておらず、長机に広げたカードをスリーブ――カードを一枚ずつ入れる袋状の保護フィルム――に入れる作業をしていた。
「忘れ物をして店に来たら、佐原さんがデュエルしようって言うから待ってる」とのことらしい。
現在、主に男性スタッフの間では、子ども向けのカードゲームが大流行している。というのも、今は倉庫として使っている店の一角を、机や椅子などを置いたカードゲームスペースにしようとしているからだ。
そしてそこで、メーカーさん公認のカードゲーム大会を開催する予定である。
元々カードの買い取り販売は行っていたけれど、カードゲームスペースがあれば集客につながるし、カードの買い取り販売も増えるだろう。公認店となればメーカーさんから参加者へ、限定グッズも頂けるそうで、それを目当てに来るお客さんもいるはずだ。
でも公認大会を開く店のスタッフが、ルールもよく把握せず、ルールを把握したとしても弱いとなれば恰好がつかない。
そのためスタッフたちは、店長副店長の指導の下、日夜カードゲームに勤しんでいる。大人の財力を武器に、店で中古のレアカードを購入して……。
彼らの名誉のために補足すると、レアカードを優先的に購入しているわけではない。買い取りをして売り場のショーケースに収め、随分と時間が経ったのに購入者が現れないものから買っているのだ。高価な商品を入れるショーケースにもスペースがある。いつまでも同じ商品を飾っているわけにもいかない。
カードゲームに勤しむ、と言っても、あくまでもそれは希望者のみのことだった。大会を開催していても売り場側では通常業務があるし、運営スタッフは数名いればいいから、興味がある人だけ手伝ってほしいとのことだった。
結果、男性陣はほとんどが手を挙げたけれど、女性陣でカードゲームを始めたのはいずみんと、お子さんがいる大友さん、準社員の綾音ちゃん、それにわたしくらいだった。
「佐原さんの休憩までまだ時間があるし、誰か付き合ってよ」という月島さんのお誘いに、絵衣子さんは綺麗な微笑みと共にすげなく断り、颯爽と帰って行った。
武田さんも用事があるとのことで、一戦終えると、大きな背中を丸めて行ってしまった。