叶わぬ恋ほど忘れ難い
残ったわたしは、長机を挟んで月島さんと向かい合い、慣れない試合に臨んでいる。
初心者のわたしにも容赦をしない月島さんの猛攻に、まだ完成には程遠いカードデッキとにらめっこをしながら唸っていたら、「そういえば」と切り出された。
「今日、武田さんとアダルトの品出しをしたんだって?」
「ああ、はい。ちょっとお手伝いしただけですが」
「嫌じゃないの?」
昼間の武田さんと同じような質問に、顔を上げると、月島さんは片手にカードを持ち、片手はデスクチェアーの背もたれに置き、じっとこちらを見つめていた。
「特に嫌だとは思いませんよ」
素直に答えると、月島さんは一瞬きょとんとし、すぐに「あはは」と声を上げて笑う。
「アダルトは品出しも買い取りも嫌がる子が多いし、まだアダルトコーナーに入ったことがないって子もいるのに、崎田さんは大丈夫なんだね」
「まあ成人していますし、それなりに経験もありますし、健全な成人男性なら、DVDや雑誌のお世話になることも多々ありますよね。だから平気です」
「理解があるねえ。彼氏が持ってても平気なの?」
「はい。というか、なんなら一緒に観てました」
「まじで?」
「ハードなやつじゃないですよ? 映画のパロディで、むしろギャグでした」
かつての恋人と観た成人向けDVDの、とてつもなく雑なパロディ作品を思い出し遠い目をしていると、月島さんは手にしていたカードを置いて身体をこちらに向けて、心底楽しそうに笑う。
「崎田さんって、変わった子だなって思ってたけど、思った以上に変わり者だったんだね」
「そうですか?」
「そうだよ。全国回ってたってだけでも驚いたのに、休憩中にピアス開けたり」
「まあ、どちらもしましたけども」
「崎田さん見てると楽しいよ。ねえ、もっと話そうよ」
この店で働き始めて四ヶ月。朝昼晩まんべんなくシフトに入っているおかげで、二十名近くいるスタッフのみんなとはだいぶ仲良くなれた。でも思い返すと月島さんとは、ゆっくり話したことがなかった。
一重まぶたのつり目で、気難しい顔をしていることも多い月島さんに、多少の苦手意識を持っていたけれど、ゆっくり話してみると、予想に反してかなりフレンドリーだった。
昨年結婚したという奥さんは学生時代の同級生で、趣味を通じて親しくなったらしい。その趣味というのは読書で、とにかく何でもふたりで読み、感想を言い合っているとのこと。――とにかく何でも。一般小説や漫画だけではなく、ティーンズラブやボーイズラブ、成人向け漫画まで、何でもだ。
小説や漫画を共有しているのはよくある。ティーンズラブやボーイズラブも、まあ分からなくもない。けれど成人向け漫画を夫婦で読んでいるのは凄い、と感心している、と。
「でも崎田さんも彼氏とアダルトDVDを観てたんでしょ? 同じ同じ」
確かにそうだった、と。再度雑なパロディ作品を思い出して苦笑した。