叶わぬ恋ほど忘れ難い
午後になって雨がやんでも客足は伸びず、今度は店長と、レジ裏の倉庫の片付けをすることになった。
パーテーションで仕切られている広いスペースは、近々カードゲームスペースになる予定で、徐々に片付けが進められている。
スタッフルームの奥にある倉庫には大量の在庫が置かれているけれど、こちら側は雑多も雑多。
古く汚れたのぼりに空の段ボール箱。何かの景品らしき謎のおもちゃ類に、古いチラシやポップ……。
今月中にスペースを整えたいとのことだけれど、スタッフはみんな通常業務があるため、片付けは予想以上に進んでいない。
段ボール箱に適当につっこまれている物を取り出し、種類ごとに分け、ひとつの段ボール箱へまとめる。開いた箱はつぶして一ヵ所に。
途中、景品らしき謎のおもちゃを「あげるよ、持って帰って」と押しつけてくる店長を軽くあしらって、段ボール箱をつぶす。
そんな作業をひたすら続けていたら、あっという間に退勤時間になってしまった。
一度スタッフルームに戻って、タイムカードを切ってから倉庫に戻ると、店長が苦笑した。
「もう退勤時間だよ、帰りなさい」
「いえ、もう少し、きりのいいところまでやっていきます」
「でもそれサービス残業だから」
「はい、かまいませんよ。退勤後の自由時間ですから、どう使おうと自由なはずです」
言うと店長は、黒縁眼鏡の奥の目を細めてふにゃっと表情を緩める。
「ありがとう、助かる」
その言葉を聞いた瞬間、ああこれだ、と思った。
たとえこれが叶わない恋で、生涯苦しむことになったとしても、この人の笑顔と言葉をもらえるなら、それで充分報われると思った。