叶わぬ恋ほど忘れ難い
十八時半を過ぎ、店長の退勤時間になると、彼の集中力が切れた。ふらふらと倉庫から出て行ったと思うと、すぐに油性ペンを持って戻って来て、段ボールの山を漁る。
そして段ボール箱のふた部分を切り取り、わたしに油性ペンを託し「ドッキリ大成功って書いて」と言った。
言われた通りに書くと、彼はどこからか棒を持って来て、ガムテープでそれを固定した。
出来上がったのは、簡素でやっつけ仕事感満載のドッキリ札だった。
「何に使うんですか、これ」
「スタッフにドッキリ仕掛けて遊ぼう」
「ふふ、なんですか、それ」
まあそれ以外に使い道はないだろうけど、まさか職場でそんなことを考えて実行に移そうとするなんて思わなかったから、思わず笑ってしまった。
「とりあえず武田くんの休憩に合わせて仕掛けるか。武田くんの弁当食べておく?」
「さすがにそれはまずいです」
「代わりにファストフード入れておこう」
「買いに走るんですか?」
「あー、それは面倒だな」
ふたりで顔を見合わせてくすくす笑い、武田さんへのドッキリをどうするか話し合った。
ただし店長が出す案はどれも壮大で、店の中の、しかもこんな簡素な手作りドッキリ札で行うことではなかったため、全て却下させていただいた。
結局採用されたのは、店長とわたしで真っ暗なスタッフルームに潜み、休憩のために武田さんがやって来たら驚かせる、という、幼稚園児や小学生が日常的に行うような初歩的なものだった。
それでも武田さんは「ひゃあああ!」という悲鳴を上げ、ドッキリとしては大成功だったけれど「ふたりとも子どもですか? 佐原さんは二十七歳、崎田さんは二十二歳で、とっくに成人したと思っていたんですがねえ! 退勤時間を過ぎても倉庫の片付けをしてくれているから、ありがたいな、申し訳ないなと思っていたら、ふたりして遊んでいたとはねえ!」と、めちゃくちゃ怒られた。
普段温厚で、森のくまさんのような武田さんが、まさかこんなに怒るなんて、と思っていたら。
「でも武田くん、柄にもなく怒ったってことは、相当びっくりしたんでしょ」
店長が火に油を注いだから、ふっと噴き出してしまった。
その結果店長とわたしは、武田さんの休憩が終わるまで、スタッフルームで正座をすることになった。