叶わぬ恋ほど忘れ難い

 そのあと、すっかり痺れて使い物にならなくなった足を癒していたら、いずみんが休憩に入った。詳細を聞いたいずみんは大笑いしたのち「店長と邑子が悪い」とばっさり切り捨てる。
 続いて休憩に入った亜紀ちゃんは「仲良しですねえ」と生温かい視線をくれた。

 夜番三人の休憩が終わる頃には二十二時を過ぎていたから、一度倉庫に戻って、途中まで手を付けていた物を片付け、つぶした段ボール箱を手分けしてバックヤードに運んだ。
 数時間のサービス残業のおかげで、倉庫の片付けも終わりが見えてきた。これなら今週中には片付けを終え、カードゲームスペースへの移行もできるだろう。

 倉庫からスタッフルームに向かう途中、度々陳列棚の前で立ち止まり「次は商品の動きが悪い大型と文庫のコミックスをどうにかしたい」「来週姉妹店からラノベを持って来てもらう」「コンビニ売りコミックスの値引きを考えている」なんて話をされた。

 商品の並びは、どうしても買い取り販売が多い順になってしまう。
 出入り口を入ってすぐの位置には、少年漫画の棚があり、店の中央――レジカウンターの正面にはゲームソフトと、ガラスケースにおさめられたゲーム機本体やコントローラーがある。

 店の奥に行くにしたがって、青年漫画、少女漫画、女性漫画、一般書、文庫本、CD、DVD、そして突き当たりにライトノベルや雑誌、大型と文庫コミックス、コンビニ売りのコミックスという具合である。

 ライトノベル大好きラノベ王の金原くんは、常々ライトノベルのスペースを広げてほしいと嘆いているし、わたしは面白い映画のDVDに日の目を見てほしいと思っている。
 でもカードゲームスペースができて、メーカーさん公認の大会も開催予定というなら、カードの売り場も広げたいだろうし。

 ならいっそのこと、コンビニコミックスはすべてワゴンに載せて陳列棚を空ければ、と提案したけれど、量が多すぎるうえに動きも鈍いので、難しいらしい。
 かと言って、本部や姉妹店に送ってばかりいると、商品が増えない。これが商売の難しいところだろう。

 そうしているうちに、いつの間にか店内には、閉店十分前を知らせる「蛍の光」が流れていて、閉店前の商品整理にやって来た亜紀ちゃんに「まだいたんですね……」と生温かい視線を向けられた。
 閉店後、スタッフルームに戻って来た武田さんといずみんにも、全く同じ言葉をもらった。

 まあそれはそうだろう。店長もわたしも今日は朝番で、八時半の出勤。かれこれ十六時間、店に居座っている。
 とはいえ、店長はよくこういうことをしているし、最近はわたしもよく、勤務を終えても居残っているから、何も苦ではない。

 この間はみんなで深夜三時までスタッフルームでカードゲームをしていて、セキュリティー会社から「鍵のかけ忘れでは?」と連絡が入ったほどだ。

「武田くん、デュエルしよう」
 店長は今日も残る気満々だ。
 武田さんは呆れながらもそれに応じ、明日はお休みであるわたしも、少し見学することにした。

 明日も朝から大学の講義があるという亜紀ちゃんと、昼から出勤のいずみんは「ほどほどにね」と苦笑しながら帰って行った。

 そして「負けた人が夜食の買い出し」という罰ゲーム付きで、三人総当たりのカードゲーム大会が開催され、深夜二時を過ぎる頃、武田さんの全敗という結果で終了した。
 初心者で、スターターズセットを少しいじっただけのカードデッキで闘ったわたしにすら勝てないのはどういうことだろう。武田さんの優しい人柄じゃ、そもそも勝負には向いていないのだろうか。


< 43 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop