叶わぬ恋ほど忘れ難い
「子どもは何人くらいほしい?」
「えーと……わたしが一人っ子なので、自分の子にはきょうだいを作ってあげたいですかね」
「一姫二太郎的な?」
「昔からよく言いますが、まさに理想ですよね。まあ、元気で育ってくれれば性別はどちらでもいいですが」
「習い事させたりね」
「はい、ピアノとか」
「いいね、ピアノ。崎田さん習ってたんだっけ?」
「十年近く習ったんですけどね、指が短くて一オクターブすら届かなくて挫折しました」
「本当だ、ここから見ても手が小さい」
「ピアノじゃなくても、習字とかスイミングとか。興味を持ったものを楽しんで学んでくれればいいですね」
「そうだね。それが一番かもね。俺はスポーツ習わせて、休日に応援とか行きたいなあ」
「いいですね、スポーツ。わたしは観る専門ですが」
「野球とかサッカーとか?」
「ですね。あとはバレーとか」
「バレー好きなんだ?」
「たまにテレビやネットで観ますし、迫力があって憧れます」
「俺、中高バレー部だったよ」
「へえ! 店長身長高いですもんね。ポジションは?」
「スパイカー。控えのね」
「そうなんですね、凄いです、バレー部だったなんて」
「多分まだパスくらいならできるはず。子どもと庭で対人パスやりたい」
「ふふ、庭で対人パスとかいいですね。絵に描いたような平和な光景ですね」
「結婚したら、庭付きの戸建てがいい?」
「できるなら。わたしの実家、田舎なので庭が広いんです。だから家族とマンションやアパート住まいの想像ができなくて」
「いいな、俺の実家、庭が狭かったから」
「いいですよ、田舎。小さい頃、庭にテントを張ってキャンプごっことかしましたし。ただただレジャーシートを敷いてお弁当を食べたりもしました」
「絵に描いたような平和だね」
「そうなんです。わたしもいつか、子どもにお弁当を持たせて、庭でピクニックしたいです」
「崎田邑子特製弁当か。なにそれ超平和」
「特製弁当だなんて、大袈裟な」
「いや、崎田さんの休憩中、煙草休憩を装って弁当を覗きに来るんだけど、いつも美味そうだよ」
「店長、わたしの休憩中に一瞬スタッフルームに来ることが多いなって思ってたら、お弁当を見に来ていたんですか?」
「そう。あわよくば強奪して、怒った崎田さんを見ようかと思って」
「強奪禁止です」
「だよね、しないしない」
「信じてますよ?」