叶わぬ恋ほど忘れ難い
この恋を終わらせてもらいたかった
店長――佐原祐介さんを好きになったのは、隣町にある古本屋のアルバイトの面接に来た、その日だった。
わたしの履歴書をじっと見た店長は、わたしが大学を中退し、仕事を転々としている理由を聞いた。すでにいくつかの面接を受けており、全く同じことを聞かれていたので、いつものように簡潔に答える。
「色々な経験をして色々な人と話したくて、短期のアルバイトをしながら全国を回っていました」
いつも通りならここで面接担当者は「ああ、自分探しね」と嘲笑する。分かっている、わたしの経歴は、あまり褒められたものではない。ちゃんと大学を卒業し、ちゃんと就職をして働いている人たちにとっては、この生活は甘く、信用できないだろう。
けれどこの店長は、いつもと少し違った。「まじで? 俺も昔バックパッカーやってたんだよ!」と目を輝かせたから、肩の力が抜けすぎなくらい抜けてしまった。
「どこが一番良かった?」
面接開始数分で、店長は履歴書を長机に置き、興味津々という様子で身を乗り出して、仕事とは全く関係のない質問をする。
「えと……どこも素晴らしかったのですが、沖縄は一番長く滞在しました」
「いいねえ、沖縄。観光とかもした?」
「それほどしていないんです。地元の人と仲良くなったら、地元の人がよく行く場所に連れて行ってもらったりしたので」
「そっかそっか、良い経験だね」
そう言って、黒縁眼鏡の奥の目を細めてにこにこ笑う店長は、仕事とは全く関係のない質問を続ける。
「でも女の子ひとりで危ないよ。そもそもどうして全国を回ろうと思ったの?」
もうこの面接はわたしの身の上話に成り代わったことが分かったけれど、面接に来た店の店長に、そんなことより仕事の話をしましょう、なんて言えるわけもなく。わたしは話が長くなってしまわないよう考えながら、経緯を伝えた。