貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「とにかく、家に帰ってから詳しい話はするから。とりあえず落ち着いて。じゃ、デザートきたし切るね」

私はそう言うと、電話の向こうで「おいっ! 与織子!」と慌てているいっちゃんを置いたまま電話を切った。 説明しだしたら長くなるから、ごめんね、いっちゃん。

心の中で謝りながら、私はお皿が置かれるのを眺めていた。

一口サイズのデザートで春らしく彩られたお皿は、見てるだけでワクワクする。ちょうどいいや、と持っていたスマホで写真を撮ると、フォークを手にした。

この前のアフタヌーンティーも美味しかったけど、ここのも絶品だ!なんて食べながら、この前の主任といっちゃんの会話を思い出す。

あの時主任は、『今日は疲れただろうから家でゆっくりされていると思ったのですが、こんなところに来る体力が残っていて何よりです』なんて言っていた。
それを思い出し、今更ながら腑に落ちた。主任はあの時、残業で疲れてるだろうからお見合いをキャンセルしたのに、私がノホホンと現れたからあんなことを言ったんだということに。

「だってしかたないじゃない。知らなかったんだもん」

つい愚痴めいた独り言を呟く。

知ってたら……ちゃんと行ったもん。

そんなことを思っていると、部屋のドアが開き、それはそれは不機嫌そうな顔をして主任は入って来た。
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