貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
主任は小さくフッと息を漏らして笑っている。

「全然嬉しくないですよ……」

私はガックリ肩を落としてそう答えていた。

そして、ほどなく連れて来られた場所に、私は何の疑問もなくついて行った。
連休で賑わう老舗高級デパート。私が行くような、ファッションビルとは客層も違う。なんとなくセレブ感の漂うお客さんが多い気がする。そして、エレベーターに乗り、連れて来られた売り場。これまたいっそう自分の場違い感に、私は尻込みしてしまう。

「いらっしゃいませ川村様。こちらへどうぞ」

主任が売り場の人に声を掛けると、奥へ案内される。私は手を引かれたまま、黙ってついていった。

「では、しばらくお待ち下さいませ」

連れて来られた部屋の応接セットに腰を掛けると、恭しくお辞儀をして店員さんは出て行った。
そして、ようやく緊張から解かれると私は息を吐き出した。

「主任。ここに何しにきたんですか? まさかとは思いますが……」

私が恐る恐る尋ねると、主任は当たり前のように答える。

「婚約したからにはいるだろう。婚約指輪」

シレッとそう言われて、やっぱりそうか、と私は唖然としていた。

当たり前のように連れて来られたここは、宝飾品売り場だ。低層階にあるアクセサリー売り場とは違い、明らかにお値段の違う品物が並ぶショーケースを横目に、奥の個室に案内されたのだ。
< 106 / 241 >

この作品をシェア

pagetop