貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「勿体ないです! 偽装にそこまでしますか?」
「偽装だからいるんだろう。目に見えるほうが説得力がある」

そう言われてしまうとぐうの音も出ない。でも、さすがにここの売り場で出てくるものが、簡単に買えるような値段だとも思えない。

「で、でも! いくらなんでも高すぎです! 私っ、払います! 一括は無理だから分割で」

一生懸命にそう訴えると、主任は呆れたように私を見て口を開いた。

「必要経費だと思えばいい。俺にとっても必要だからな。それとも、俺からの贈り物は嬉しくないか?」

最後に、きっとまた私を揶揄っているだろう笑みを浮かべて主任はそう言う。そう言われて、まさか「嬉しくない」とは答えられない。と言うか、嬉しくないわけはないのだから。

私が複雑そうな顔をしていると、扉を叩く音が聞こえた。

「お待たせいたしました」

そう言って入ってきたのは、年配の品の良さそうな男性。スーツ姿に白い手袋をして、手にはケースを持っていた。

「川村様。本日は誠におめでとうございます。仰せつかった品物をいくつかお持ちしました」

テーブルの向かいでそう言いながら差し出されたのは、想像以上に光り輝くダイヤモンドのエンゲージリングだった。
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