貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「どれにする?」

 目の前のケースには、5つほどリングが置かれている。見るからにどれもお高そうなのに、そんなことを気にする様子もなく主任は私に尋ねた。

「どれにすると言われましても……」

 見てるだけで物おじしてしまいそうなピカピカに光るダイヤモンドリングを前に私は恐縮してしまう。
 それを察したのか、店員さんは私にニコッと笑いかけると、「お試しいただいたらどうでしょうか。お嬢様」と言った。

 お、お嬢様⁈

 生まれてこのかた言われたことのない台詞に、私は思わず変な声を出しそうになってなんとか堪えた。

「付けてみればいい」

 素っ気なくそう言われて、「はい……」と私は左手を差し出した。

 店員さんは慣れた手つきで指輪を嵌め、「いかがでしょう?」と尋ねる。

 さすがに、手だけ自分じゃないみたいです、とは言えず、私はなんとも微妙な顔になった。そうして、取っ替え引っ替え指輪を嵌めてもらい、最後の一つになった。

「どうだ? いいのあったか? なかった他のも持って来てもらうが」
「いえっ! これで充分です! と言うか、これにします!」
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