貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
もうどれも、不相応な気がして、全部一緒に見える。あえて言うなら、最後のこれが一番シンプルだ。

「さすが川村様のお相手となるかたですな。お目が高い」

満面の笑みを浮かべてそう言われて、私はそのぶん顔が引き攣っていた。
なにせ、ここにあるものには全部値札が付いていなかった。もしかしなくても、この、一番シンプルなこれが、一番お値段が張るものだったみたいだ。

「ではそれを。支払いはいつものようにしておいてくれ」
「かしこまりました」

今、これぞ御曹司、と言う片鱗を垣間見た気がする。これは……絶対家に外商の人とかくるやつだ。堂々としている主任を見て、私はそんなことを思った。

「じゃあ、それは付けたままでいいな。次へ行くぞ」

まるで仕事のノルマを果たすような顔で主任はそう言う。

「……いったいどこへ……?」

聞きたいような、聞きたくないような。そんな気持ちになるが、これ以上凄いところへ連れて行かれて見苦しいところを見せる前に、心の準備をしておきたい。

「婚約が決まったなら行っておかなきゃいけないところがあるだろう?」

主任は訝しげな顔をしてそう言う。

「……と言いますと?」

思い当たる場所もなく、私はおずおずと尋ねる。

「お前の実家だ。ちゃんとアポは取ってあるから安心しろ」

まるで取引先に向かうような口調で、主任はそう言った。
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