貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
緊張しすぎてお茶の味さえわからず、私はそれをチビチビ口に含んでいると主任から小さく声が漏れた。

「美味いな、これ」

その言葉に弾かれるように私は顔を上げ、つい「本当に?」と尋ねてしまった。

「俺がお世辞でそんなこと言うように見えるか?」
「……。見えないです」

真顔でそう言われ、私は身を縮ませて答える。

「ほうれん草の濃いめの味が卵と合ってるな。ほうれん草自体も味が濃い気がする」

少し表情を緩めて続けた主任に、私は顔を上げた。

「うちのほうれん草美味しいでしょう? 良かった。まだたくさんあるんで食べてください」

野菜を褒められたことが嬉しくなり、調子に乗ってそう言うと主任は少し笑った。

良かった……

うちの兄弟は私の作ったものを無条件に美味しいと言うから、本当に美味しいのか全く自信がなかった。主任が誉めてくれて少しだけ自信ができ、私もようやくお皿を手にした。

ふと見ると、主任はおにぎりを手に、ラップをめくっているところだ。

「豆ご飯……男の人って苦手な人も多いって聞くので、無理しないでくださいね。普通のもありますよ」

そう言うと、主任は「あぁ」と呟くように言っておにぎりに視線を落とした。

「確かに好んで食べるわけじゃないが、嫌いでもない」

 そう言ったかと思うと、主任はパクリと一口おにぎりを齧った。
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