貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「いい塩気だ。これも美味い」

顔から火が出そうになりながら、私はなんとか「ありがとうございます。それもうちで採れた豆です」と言う。

「そうか」

それだけ言うと、主任はあっという間におにぎりを食べてしまった。

どうしよう……。凄く……嬉しいかも

火照った顔を見られないよう俯き加減でおかずを口に運ぶ。自分が作ったものが、いつもの何倍も美味しいような気がした。


「綺麗になくなりましたね」

結構詰めてきたと思っていたタッパーは見事に空になり、私はそう言いながら蓋をしていた。

「ご馳走様。朝から大変だっただろう」
「そうでもないですよ。田舎の子は朝が早いんです」

緊張も解け、私は笑いながらそう返す。

「ならいいが。でも、一つ残念なことがある」

主任は何故か笑みを浮かべてそう言う。

「えっ? 何かしました?」

ドキッとしながら姿勢を正すと、主任はふふっと息を漏らした。

「今日は得意の大根料理がなかったなと思って」

それに私は大きく息を吐くと、「もう! 驚かせないで下さい! 大根が獲れるのは早くて夏ですから」と答えた。

「じゃあ、その時を楽しみにしてる」

そう笑顔を向けられ、私の顔はまた熱くなっていた。
< 135 / 241 >

この作品をシェア

pagetop