貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「今日はありがとうございました」

夕方、うちのマンション近くの駐車スペースに車が停まると、私は主任にそうお礼を言った。

結局、植物園の入園料から、中にある温室カフェでのお茶代、そしてお弁当のお礼だと観葉植物の鉢植えまで買ってもらい帰ってきた。もちろん主任は夕食でも、と言い出したが、そこは丁重お断りしたのだった。

彼女でもないのに、お金使わせてしまうのは忍びない……。私、婚約者だけど

私はつい冷静に、そんなことを思ってしまうのだ。偽物は偽物らしく慎ましくいきたい。

「こっちこそ。連れ回して悪かったな。明日は……ゆっくりできそうか?」
「はい。そのつもりです。主任は出勤ですよね。よかったんですか? 休み取らなくて」

私がそう尋ねると、主任は溜息のように息を吐いた。

「それなりに仕事は溜まってそうだからな。清田にだけ任せるわけにはいかない。休みはまた暇を見つけて取るつもりだ」

私のいらぬ一言で現実を思い出させてしまったようで、主任は少しうんざりしたような顔をしていた。

「それより……。土曜日の午後、時間あるか?」

土曜日といえば明後日だ。元々この連休はノープランで、どこかに行く予定など立ててなかった。

「特には……」

真面目な顔でそう答えると、主任は私を見た。

「うちに来ないか?」
< 136 / 241 >

この作品をシェア

pagetop