貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
土曜日の午後2時過ぎ。待ち合わせはいつものように私の家の前。歩道で待っていると、すっかりナンバーを覚えてしまった主任の車が滑り込んできた。私は停まった車の助手席の扉を開け、そこに乗り込んだ。

「お疲れ様です、主任。今日はよろしくお願いします」

シートベルトを付けて顔を上げると、何故か主任はポカンとした表情でこちらを見ていた。

「朝木……。転職でもするのか?」
「へっ?」
「その格好……」

そう言われて、自分で選んで着たはずの服装を確認するように見る。

「変ですか? 少しでも賢そうに見えたほうがいいと思って」

私が真面目に考えた末選んだのは、入社式の時と同じ黒のスーツ。みー君にはその時無難と言われたけど、それくらいのほうがいいと思ったからだ。

「賢そうに見える必要あるのか?」

ハンドルに手を置いたまま、主任は呆れているようだ。

「え、と。部下が頭悪そうで、主任が苦労してると思われてしまうのもと思ったんですが……」

私が答えると、主任はハンドルに伏せるようにして、車内に響き渡るほど大きく息を吐き出した。そしてしばらくすると体を上げ、車のレバーを操作し始めた。

「お前はいつも想像の斜め上を行くな」

前を向いて車を走らせ始めた主任にそう言われるが、もちろんそれは全く褒め言葉に聞こえなかった。

こんなだから、大学時代にも友人から『天然箱入り娘』と揶揄われるんだよ……

私はその場で項垂れて、猛反省していた。
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