貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

「ところで。与織子ちゃんはいつまで創一さんのことを主任と呼ぶのかしら？」

「えっ？　……じゃあ……川村、さん？」

私が辿々しくそう答えると、教授は一瞬面食らったような表情をしてから笑い出した。

「あらあら。それなら私も川村よ？　創一さん、なんてどう？　嫌なら、創君でも、創ちゃんでもいいわよ？」

下の名前で呼ぶだけでもハードル高そうなのに、君とかちゃんとか絶対無理だ。

「主任のほうが嫌がりそうですよ」

そんな呼び方をして、蔑むように冷たい視線を浴びせられたら堪ったものじゃない。想像しただけで背筋が寒くなる。

「そうかしら？　でも、練習はしておいたほうがいいわね？　公式の場で主任と呼ぶわけにはいかないでしょう？」

諭すように穏やかに言う教授に、「確かに……」と答える。
公式の場がどこかはわからないけど、周りの目を欺こうとしているのにいつでもどこでも『主任』と呼ぶのは確かにおかしい。あっという間に偽物だとバレてしまう。

「が、頑張ります……」

私は引き攣った笑顔で教授にそう返した。