貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「ただいま……」

小さくそう言いながら入った玄関。奥からはなんの気配もせず、静まり返っている。それに少しホッとして、自分の部屋に入った。

「なんか……疲れたな……」

誰に聞かせるわけでもなく、ついそんな言葉が漏らす。私はその場で大きく溜め息を吐くとそのままベッドに転がった。

なんで私……主任に彼女がいたことにこんなにショックを受けているんだろう？

まだ主任と知り合って１か月と少し。そして婚約者になってまだ１週間も経っていない。なのに、いろんなことがありすぎて、一気に疲れがやってきた気がする。

もう、何も考えられないや……

すでにウトウトとし始め、私は意識を手放しかけている。そして、そのままゆっくりと沈んで行く感覚に身を任せていた。


『お兄ちゃん！　もう帰っちゃうの？』
『ごめん。そろそろ帰る時間だ』
『やだよ！　次は与織子と一緒にひまわりの種まこうよ！』

そうだ。大根を踏まれてしまい泣いてた私は、丁寧に植え直してくれたその人にそう言ったのだ。初めて土いじりをしたな、なんて言って楽しそうに笑っていたその人に。

『――！』

遠くで誰かがその人を呼ぶ声がする。

『いっちゃやだ！　どうしたらずっと与織子と一緒にいてくれるの？』
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