貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
私なんて、その程度、だよね……?

一度沈んでしまった気持ちは簡単には浮き上がらない。頭に浮かぶのはネガティブなことばかりだ。
いつもとは違う、昼間の少し人の少ない電車に揺られながらぼんやりとそんなことを考えた。でも、仕方ないとも思う。私のやり残した仕事の続きもある。私の心配より、仕事の心配をしなきゃいけないのは当然なんだから。

なんとか自力で家に帰り着き、鍵を開け中に入る。

その時の私はすっかり忘れていた。今日は金曜日の昼間。いつもなら誰もいない時間帯。姿を見てはいけないと言われている人が、今この時うちにいることを。 

お弁当、冷蔵庫にしまっておかなきゃ

全く手をつけないまま持って帰ってきたから、放置していたら傷んでしまいそうだ。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えて、廊下の突き当たりの扉を開ける。そこからは右側にキッチンとダイニング。左側にリビングがある。何も考えていなかったから、その向こう側に明かりが付いている理由など浮かぶはずもなく中に入ってからハッとした。
ダイニングテーブルに並ぶタッパーにはたくさんの料理が入ったまま並べられているのが見え、その向こうのキッチンから換気扇の回る音と料理をしている気配がした。

あ……鶴さんだ……
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