貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
『──結婚なんて言葉、よく知ってるな』
『知ってるよ! お母さんが、大好きな人と一緒にいたいから結婚するんだって言ってたもん!』
『与織子は……僕のこと好きなのか? 会ったばかりなのに』
『うん! お兄ちゃん優しいもん。与織子の大根さんたちにも優しくしてくれたでしょ?』

……これは……いつの記憶?

すっかり忘れていた出来事。昔、確かにそんなやりとりをした。

『……そうか。ありがとう』

その人は私に穏やかに笑いかけて、頭を撫でてくれた。
とても温かい手だった。
そして、その人は小さくこう言った。

『僕が迎えに行くまで……、待ってて』


あ……れ……? さっきのは……現実?

また眠ってしまっていたようだ。うとうとしながら夢を見ていた。でも、今のは……夢じゃない。すっかり忘れていた、遠い昔にあった出来事。

そんなはず……

打ち消したいけど、消したくない記憶。あの人が、もしそうなら……、覚えてくれていたってこと?

クッションを抱えたまま、ノロノロと起き上がる。そこにあった水玉模様は、すっかり消えてなくなっていた。
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