貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
私を挟んでの、まあまあ本気の言い合い。口を挟めるはずもなく、その行方をハラハラしながら見守っていたけど、さすがに最後の言葉に『ん?』となった。

「え……。ちょっと待って? 澪さんの結婚したい相手って……」

私が唖然としながら顔を上げると、向こう側でヒラヒラ手を振る澪さんの姿が見えた。

「一矢なのよね。黙っててごめんね?」

明るくそう言う澪さんの向かいで、いっちゃんは小さくなっている。

「いっちゃん⁈ どうして教えてくれなかったのよ! 聞いてたら私、こんなに悩まなくてすんだのに!」

最初から、いっちゃんが澪さんを紹介してくれていたら、こんなにモヤモヤし続けることもなかったのだと思うと怒りが込み上げた。

「その……、すまん。なんか……恥ずかしくてだな……」

より身を小さくしたいっちゃんに、「恥ずかしいってどういうこと⁈」と、私は我を忘れて爆発していた。

「まあまあ、与織子ちゃん、落ち着いて?」

澪さんは笑いを噛み殺しながら私に言う。その笑いは、私に叱られている情け無い姿のいっちゃんを見て、だと思う。
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