貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
それから少し落ち着きを取り戻し、私は自分のペースで仕事を片付けた。仕掛けの仕事は所定の場所に戻し、明日の準備を済ませるともう定時だ。
知らないうちに何か連絡がきてるかも? とスマホの画面を確認したけど、誰からも何の連絡もない。

いっちゃんも知らないの?

けれど、専務は私が部屋を出る前、捨て台詞のようにこう言ったのだ。

『君の長兄に相談しても無駄だよ?』

専務は全て知っているのだ。うちがどういう家なのかも、私が何を持っているのかも。
そして、こうも言った。

『土曜日の旭河の創立記念パーティー、楽しみだよ。君ももちろん招待されてるんだろう? 川村の言う然るべき場所って、このことだろうしね? 俺ももちろん招待されてるんだ。そこで結婚を発表したら、いったいどんな顔をするかな』

そのとき専務は、一人楽しげに笑っていた。
けれど私は、顔をこわばらせるだけだった。専務の言う通り、私たちはそこで婚約発表するつもりだったから。

それでも私は信じるしかない。

『大丈夫だ。俺は二度と与織子を悲しませるようなことはしないから。だから、俺を信じてくれ』

そう言ってくれた創ちゃんの言葉を。
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