貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
自席に向かうと、まだ早いからか出社している社員の姿はまばらだった。

あれ……?

一番奥の課長の席。そこには、鈴木課長と桃花ちゃんが話をしているのが見えた。

珍しいな……

遠くから眺めてそう思う。1課と桃花ちゃんのいる3課は、ほぼ仕事の接点はない。この2人が話しているところなんて、初めて見たかも知れない。桃花ちゃんの腕には書類らしき紙の束。そして2人は、何か深刻そうに小声で会話している。

私が近づくと、桃花ちゃんは顔を上げ、私に向かって笑顔を見せた。

「おはよう! 与織子ちゃん」

そう言うと桃花ちゃんは、そのまま私の元へやってきた。

「おはよう。桃花ちゃん」

バッグを椅子に置きながら私は言う。

「あのね、今鈴木課長にお願いしてたんだけど、近いうちにランチしに行こうよ!」

明るくそう言われ、私は少し面食らう。そんな話をしているようには見えなかったし。

「え、あ……。うん」

戸惑いながらそう答えると、桃花ちゃんは「よかった!」と笑った。

「本当は夜ご飯でもと思ったんだけど、与織子ちゃんデートで忙しいかも知れないしね?」
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