貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
主任を茶化すように今井さんが言うと、主任は眉間に皺を刻みながらグラスをテーブルに置いて息を吐き出した。

「俺には仕事ぐらいしか、することないからな」

確かに、私が出社するとすでに山のような書類が机に乗っているし、退社するときも、主任だけまだまだこれから、みたいな顔をして仕事をしている。一体どれくらい仕事してるんだろう?と不思議ではあった。

けれど私の心配を他所に、主任の横で林さんがニヤニヤしながら主任に肘鉄を食らわせている。酔っているとは言え強者だ。

「そう言いながら主任。見ましたよぉ~。愛妻弁当!すっげー美味そうなやつ!」

いつの間にか席を立ってまた戻って来た今井さんが、主任にまた同じウイスキーのグラスを差し出しながら「見た見た!俺も!」と言っている。

「主任……。奥さまがいらっしゃったんですか?」

つい左手に目をやるがそこに指輪はないし、仕事中に世間話をする余裕もないから、主任が結婚してるなんて知らなかった。その上愛妻弁当を食べていただなんて。
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