貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「……これで進めてくれ」
「はっ、はい!」

ちょっとだけ変なことを考えてしまって、我に返ると慌てて返事をする。そんな私を見て、主任は少しだけ笑った気がした。

「課長のところへ行ってくる」

そう言って立ち上がり背を向けた主任の横顔は……

なんか照れてる?

兄弟の中では一番喜怒哀楽が分かり辛い末弟のりっちゃんが照れた時もこんな顔するな……なんてその顔を見た。けど、照れる理由なんてあったっけ?と思い直す。

気のせいか……。そう思いながら私は目の前の画面に向かった。

そしてそれから私は、とにかく脇目も降らず入力に集中した。自分で言うのもなんだけど、集中しだすと周りが見えなくなるタイプらしい。机にトン、といつも飲むペットボトルのミルクティーが現れて、私はようやくそこで顔を上げた。

「あまり根を詰めるなよ?これでも飲め」

そう言って主任が心配そうに私を見ていた。

「ありがとうございます」

そう言ってそれを手にしながら壁の時計を確認すると、もう8時をとっくに回っていた。
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