貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「進捗はどうだ?」

主任はブラックコーヒーの入ったボトル缶の蓋を閉めながら私に尋ねる。

「この束で最後です」
「そうか。もう少しだな。引き続き頼む」

主任は素っ気なく言うとまたキーボードを叩き始めた。
振り返ると、すでに残っている人はほとんどいない。2課の人はみんな帰っているし、3課も課長だけだ。
いつもならとっくに家に帰り着いている時間だけど、他の兄弟達も今日は残業なのか、机に置いたスマホには何の通知も入っていなかった。

よし、頑張ろ!

同じ姿勢で固まった体を、一度伸びをして解すと私はまた画面に向かう。

訂正するのは一箇所だけ。でも、それを間違うと大変なことになってしまう発注数の部分。数量の単位が変更されていることに気づかず、私はそのままを入力し続けていたのだ。しかも、今回入れたものが来週からの工場の稼働に関わるから、何としても今日入れておかなきゃいけない。

確認が遅れていたら、主任一人でやり直していたかもしれない。そうなると、主任はいったい何時まで残業しなきゃいけなかったのか……。想像すると背筋が寒くなった。
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