貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
私がそう訴えると、渋い紅茶を飲んだみたいな顔をしてカップを置く。

「与織子、セクハラされてんのか?」
「そこまでじゃないけど……。なんだかんだで主任がていよく追い払ってくれてるし。じゃあ、お見合い相手じゃないとして、もしかして専務もうちの山狙ってるとか?」

お父さん曰く、お見合い相手はうちの山を狙ってる。いったいあの山にどんな魅力があるのかわからないけど、他にも狙ってる人がいるかも知れない。

「山?」

いっちゃんは、私に不思議そうに尋ねる。

「そうだよ? うちの山。お父さんが言ってたもん。(きん)でも埋まってるの?」

私がそう言うと、いっちゃんはしばらく考え込んでいる。

「いっちゃん?」

ようやくいっちゃんはカップに視線を落としたまま、真面目な顔をして口を開いた。

「そうだな。山、狙ってるかもな。仕方ない。その専務とやらにお見合いねじ込まれる前に、こっちの話を進めないとな」

 いっちゃんは独り言のようにそう呟き、一人納得しているようだった。
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