貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「――と言うわけなんです」

全部話し終わると、主任は鋭い目つきを私に向けた。

「セクハラを通り越してパワハラだな……。このことは誰か知っているか?」

私は無言で首を振った。この話は、いっちゃんにすらしていない。

「そうか。なら……。朝木」

まるで仕事中みたいに真面目な顔で主任は続ける。

「俺と……結婚しよう。いや、まずは婚約が先だな」

と。

ポカンと口を開けたまま主任の顔を眺めてから、私はようやく言葉を発した。

「えっ、と。じょ、う……だん……ですよね?」

切れ切れに尋ねると、主任はいつもの愛想のない顔を私に向けた。

「俺が冗談を言うように見えるか?」
「…………。いえ。見えません」
「だろうな。俺は本気だ。と言うより、本気じゃないと敵の目は欺けない」

主任は至って真面目ない顔でそう言った。敵……とは、たぶん専務のことなんだろう。けれど、私にとっては敵かも知れないけど、主任には何の関係もないんじゃないだろうか。こうなったら気がすむまで聞いてやろうと私は深呼吸して主任に尋ねた。

「いったい何のメリットがあるんですか? 主任は別に山を狙ってるわけじゃないんですよね。私と婚約して、主任に利益があるとは思えません」
「メリット、か。……それなら俺にもある。まず俺は、この見合いが上手くいかなければ、会ったこともないどこかの令嬢と結婚させられる」

不愉快そうに眉を顰め主任はそう言うと続けた。
< 96 / 241 >

この作品をシェア

pagetop