貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「その上、今の会社は辞めて親の会社に入れられる」

なんか、唐突に次元の違う話を聞かされて、私は無言で主任の顔を見ていた。

令嬢と結婚? 親の会社? やっぱり、御曹司と言うのは間違いじゃなかったのか……

「でも、私と結婚すればそうじゃなくなるってこと、なんですよね?」
「そうだ。それに朝木にもメリットはある。俺と婚約すれば山を狙う輩は現れない。専務もしばらくは大人しくなるだろう。だが、口先だけで婚約したと言ったところで、すぐにバレるだろうがな」

未だに私と山に何の関係があるのか、よくわからない。でも何かしら関係があって、私と結婚する人間に山が渡るのは何となく理解できた。

「他の人にとってはただの山かも知れないけど、私、あの山が好きなんです。小さい頃からずっと見てて、麓には私の作った畑もあって。そのまま大事にしてくれる人にしか渡したくありません」

真っ直ぐに顔を上げて主任を見ると、主任は私を真剣な眼差しで見つめ返していた。

「主任は山に興味はないんですよね?」
「あぁ」
「わかりました。では、お受けします。私と婚約してください」

私が真剣な顔をしてそう言うと、主任は少し驚いたように目を開いた。けれどそれはほんの少しの間だけで、フッと息を吐くと表情を和らげた。

「あぁ。利害関係は一致したな。じゃあ、よろしくな。朝木。いや、与織子」
「へっ! あの、そのっ!」

突然名前で呼ばれて慌てふためいていると、主任は肩を揺らして笑っていた。
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