宿命の星
月隠れの日から数日。
旅人の怪我はすっかり良くなって、明日は旅へ戻ることを若夫婦に伝えた。
「私のような素性のわからないものを手厚く看護して頂き、本当にありがとうございました。」
「あら、ユンの遊び相手をしていただいて、とても助かっていたのに。子供は正直だから、怖いおじさんには懐かないのよ、もう少しいてくださってもよかったのに残念」
「私はそんな善人ではありません。」
奥さんはその日ご馳走を用意し、楽しい食事となった。
次の日朝早くに旅人は村を出た。
川沿いから森を抜け、草原に出た頃名残惜しそうに村を振り返って、村の異変に気づく。
「私の追手か?」
村の方向で煙が上がっていた。
「村人には関係ないはずだが、まさか!」
近くの茂みに荷を隠し、急ぎ村の方へ向かった。
村に到着したときには、日がだいぶ高くなっていた。
「そんな…」
村全体はすでに焼け落ちて墓標のように煙があちこちから上がっていた。
旅人は自分を助けてくれた村のために祈りながら墓を作った。鎮魂の呪文をひたすら何回も何回も唱えて。
そして、子供用の墓を作り、ユンの亡骸を探した。
村を一周しても赤ちゃんの骨は見つからなかった。そして、村の外れ森に続く道に血の跡を見つけた。
太陽が半分顔を隠し始めて、数分後には暗くなる時間だったからか、森の方に淡い光の影が見えた。
"これは、親父の結界か?"
懐かしいオーラを感じ、結界に近づく。
結界は旅人を拒むことなく受け入れてくれた。
結界の中を少し歩くと介護中に良く嗅いだ匂いと不思議な形をした薬草と麻の籠を見つけた。
「無事だったか」
籠を覗き込むとキャキャっと赤ん坊か笑いかけてくれた。
周りを見渡すと奥さんが血を流して倒れていて、
「奥さん。…奥さん!」
虫の息だが、かろうじてまた息をしていた。
旅人はすぐに不思議な薬草を煎じ奥さんの傷口と口へ含ませる。
喉のおくが微かに動くのを確認しながら少しずつ…少しずつ…。
"助かってくれ"
呼吸が落ち着くのを確認し、旅人も少し休むことにした。
親父のオーラに触れたせいか懐かしい夢を見た。まだ旅人が子供だった頃
父は国の王を支える右腕として仕えていた時の話。
魔物を倒す遠征へ行った先で王が怪我をしてしまい困っていたら、近くの村の人が不思議な薬で治療してくれて大事に至らなかったと。
村人の話ではその村には古くからの言い伝えで"どんな病も治すことが出来る不思議な草が生える"と言う。草の成分は分からなかったが確かに村の住人は健康で長寿のものが多かったとか。
この薬草を巡って争いが起こらないようにと父は不思議な術を施した結界を張ったと話してくれた。"悪しきものが入ることができない術の結界"
ああ、だからここに倒れていた旅人をなんの疑いもなく手当てしてくれたのか…。
ふと赤ちゃんの鳴き声で覚醒する。
寝ていたのか。
「ユンをこちらへ」
振り向くと奥さんが身体を起こして木にもたれかかっていた。
まだ動くのも辛いだろうに。
ユンを奥さんへ預け、あたりを見渡す。
「周りを確認してきます。」
旅人が席を外すと奥さんはユンにお乳を飲ませた。
旅人も暗いうちにまずは荷物を取りに行き、もう一度村の様子を確認して戻った。
結界の中に戻ると、奥さんが心配そうにこちらを見た。
「村は…。それにこの結界も弱くなってきている。」
お腹満足で元気になったのか、ユンが旅人を見て笑ってくれた。
旅人は自分が追われている身であること、村の状況から自分のせいでこうなってしまったかもしれないことを正直に告白した。
「追われる身である為、安全とは言えないが、お二人を責任を持って安全な場所へ連れて行かせて欲しい。」
奥さんはユンを見る。
ユンは旅人を見てキャキャっと笑う。
「この子はあなたを慕っています。村のことやその結果を責めても私達は何も出来ません。私とこの子の命をあなたに預けます。よろしくお願いします。」
「はい。私ができる全てであなた達を守ります。」
"きっと、これも宿命"
旅人の怪我はすっかり良くなって、明日は旅へ戻ることを若夫婦に伝えた。
「私のような素性のわからないものを手厚く看護して頂き、本当にありがとうございました。」
「あら、ユンの遊び相手をしていただいて、とても助かっていたのに。子供は正直だから、怖いおじさんには懐かないのよ、もう少しいてくださってもよかったのに残念」
「私はそんな善人ではありません。」
奥さんはその日ご馳走を用意し、楽しい食事となった。
次の日朝早くに旅人は村を出た。
川沿いから森を抜け、草原に出た頃名残惜しそうに村を振り返って、村の異変に気づく。
「私の追手か?」
村の方向で煙が上がっていた。
「村人には関係ないはずだが、まさか!」
近くの茂みに荷を隠し、急ぎ村の方へ向かった。
村に到着したときには、日がだいぶ高くなっていた。
「そんな…」
村全体はすでに焼け落ちて墓標のように煙があちこちから上がっていた。
旅人は自分を助けてくれた村のために祈りながら墓を作った。鎮魂の呪文をひたすら何回も何回も唱えて。
そして、子供用の墓を作り、ユンの亡骸を探した。
村を一周しても赤ちゃんの骨は見つからなかった。そして、村の外れ森に続く道に血の跡を見つけた。
太陽が半分顔を隠し始めて、数分後には暗くなる時間だったからか、森の方に淡い光の影が見えた。
"これは、親父の結界か?"
懐かしいオーラを感じ、結界に近づく。
結界は旅人を拒むことなく受け入れてくれた。
結界の中を少し歩くと介護中に良く嗅いだ匂いと不思議な形をした薬草と麻の籠を見つけた。
「無事だったか」
籠を覗き込むとキャキャっと赤ん坊か笑いかけてくれた。
周りを見渡すと奥さんが血を流して倒れていて、
「奥さん。…奥さん!」
虫の息だが、かろうじてまた息をしていた。
旅人はすぐに不思議な薬草を煎じ奥さんの傷口と口へ含ませる。
喉のおくが微かに動くのを確認しながら少しずつ…少しずつ…。
"助かってくれ"
呼吸が落ち着くのを確認し、旅人も少し休むことにした。
親父のオーラに触れたせいか懐かしい夢を見た。まだ旅人が子供だった頃
父は国の王を支える右腕として仕えていた時の話。
魔物を倒す遠征へ行った先で王が怪我をしてしまい困っていたら、近くの村の人が不思議な薬で治療してくれて大事に至らなかったと。
村人の話ではその村には古くからの言い伝えで"どんな病も治すことが出来る不思議な草が生える"と言う。草の成分は分からなかったが確かに村の住人は健康で長寿のものが多かったとか。
この薬草を巡って争いが起こらないようにと父は不思議な術を施した結界を張ったと話してくれた。"悪しきものが入ることができない術の結界"
ああ、だからここに倒れていた旅人をなんの疑いもなく手当てしてくれたのか…。
ふと赤ちゃんの鳴き声で覚醒する。
寝ていたのか。
「ユンをこちらへ」
振り向くと奥さんが身体を起こして木にもたれかかっていた。
まだ動くのも辛いだろうに。
ユンを奥さんへ預け、あたりを見渡す。
「周りを確認してきます。」
旅人が席を外すと奥さんはユンにお乳を飲ませた。
旅人も暗いうちにまずは荷物を取りに行き、もう一度村の様子を確認して戻った。
結界の中に戻ると、奥さんが心配そうにこちらを見た。
「村は…。それにこの結界も弱くなってきている。」
お腹満足で元気になったのか、ユンが旅人を見て笑ってくれた。
旅人は自分が追われている身であること、村の状況から自分のせいでこうなってしまったかもしれないことを正直に告白した。
「追われる身である為、安全とは言えないが、お二人を責任を持って安全な場所へ連れて行かせて欲しい。」
奥さんはユンを見る。
ユンは旅人を見てキャキャっと笑う。
「この子はあなたを慕っています。村のことやその結果を責めても私達は何も出来ません。私とこの子の命をあなたに預けます。よろしくお願いします。」
「はい。私ができる全てであなた達を守ります。」
"きっと、これも宿命"