青い星を君に捧げる【弐】
大方、こいつがリリィに向ける視線を見ていれば話の内容なんざ予想がついている。


お前は聞きたいんだろ、あの男のこと。


挑発するような発言に、表情を曇らせた黒鉄だったが、歩き出した俺の後ろをついて来る。


ホテルのエントランスを抜け外に出ると、夜も更けているため人の気配は一切ない。


「……藤野佑真、どんな男だったんだ」


リリィからその名前を聞いていたのかと驚いた。随分甘くなったものだ。


「あの男は大勢の憧れの的だったが決して善行を重ねていた人じゃない。むしろ自分勝手で、周りはいつも振り回され……それから孤高だった」


季節に置いてきぼりにされた花のように。周りにはいつも人がいるのに、俺にはあの男がひとりぼっちに見えていた。


いやむしろ、今思えばそれを藤野佑真は望んでいたのかもしれない。


自分の領域には何人たりとも入れさせないが、己はずけずけと他人の中を我が物顔で入り込む。


それに救われた者が多くいた。そのうちの1人が、リリィだ。


あの頃の彼女は息をしている人形のようだった。自由がなく、自分の心の内を晒す方法を知らない。


狭く厚い鉄箱に閉じこもっているようだった。
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