青い星を君に捧げる【弐】
青龍倉庫からほど近い英治さんが経営しているカフェ『ミモザ』には[本日貸切]の看板が掲げられていた。

集会翌日、私は青蝶にお世話になるということで自己紹介なるものを青蝶のメンバー一同が会すミモザに来ている。


道中、真希さんと一緒に歩いて来た時に青蝶のことについて情報を仕入れることができた。


なんでも、青蝶は活動拠点になるような特定の場所は持たないらしい。珍しい話であるが、女性しかいないのでそれは賢明なものであると思う。


だから毎回集まるところが違うらしい。日々点々と場所を移しながらメンバーで楽しくしている、と真希さんは教えてくれた。


「てなわけで、青蝶でしばらく預かることになったから、よろしくしてやってくれ」


挨拶って言うのは多分建前で、女性陣達はテーブルに賑やかに並べられた料理をつつきながら、話に花を咲かせる。


私は幹部の方たちと同じテーブルにお邪魔した。


「早速だけど…青姫ちゃんはどいつが好きなんだい?!」


「…は?」


真希さんが片手に持ったビールを豪快に呑んで、テーブルにジョッキを置きながら言った。手に持っているものは見えなかったことにしても、言っていることの理解が追いつかない。


「青姫になったってことは、今はいないあの女嫌い代表を認めさせたんだろ?湊か慎の女なのか?!」



「えっと…期待されてるとこ悪いけど、あの二人に私は恋愛感情なんてものはないよ」


大皿に盛られているサラダを取り分ける。どうぞ、と真希さんの手元にサラダを置き、私は皿に乗せられていたきゅうりを食べた。ん、美味しいな。さすが英治さんだ。


「…ああそうか、わかった。お前あの男たちに出会う前から好きな人がいたんだな」


どこからそんな確信を得たのか知らない。だけど、ここは女子しかいない空間だし、単に恋愛話がしたいのかも。


「“好き”という感情も、愛も、この世界がこんなに鮮やかな色をしていることも全て彼が教えてくれたんだ」


「……その彼は、今どこにいるんだい?」


真希さんはもっていた串に刺さっていた最後の肉を食べて、いつの間にか空いていたジョッキに串を入れる。


「彼の夢は田舎で野菜を作ってのんびり過ごすことなんです」


もう一つの彼の夢は言わなかった。彼の夢の続きを私がまだ描いてるから。


「なんなんだよ、そのジジ臭い夢は」


「彼は忙しい人だったから…きっとゆっくりしたかったんでしょうね」


くすくすとあれこれ思い出して笑ってしまった。真希さんもそんな私を見て目を細める。
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