青い星を君に捧げる【弐】
観客席の方へ一礼するが拍手はされない。と、思ってたのに。


パチパチパチ


1人の手を叩く音が響いた。顔を上げて音の方を見ると____ハジメ様だった。口元がうっすらと弧を描き、一直線に私を見ている。


それだけで、この日に私を見てくれたことだけで、私のやる気は倍増した。


椅子に腰掛け、深く呼吸をし高鳴る鼓動を落ち着かせる。


鍵盤にそっと触れた。久しぶりのその触覚にピアノを学んでいた時の記憶が蘇る。


あなたの特別な日に贈る曲をどれにしようかずっと考えあぐねていたけれど、この時これにしようと決めた。


〜♪


ドビュッシー『月の光』


フランスのヴェルレールの詩から着想を得たこの曲は湖に映し出された月の光が風で揺れるように儚げでありながら、美しい。


ハジメ様のこれからの日々が愛と幸せであることを願いながら、私は1音1音に心を込める。


あなたの愛が私に向けられなくてもいい。だけれどハジメ様を遠くから見ていることは許して。


最後の1音を名残惜しく弾き、私は椅子から立ち上がり再び観客の方へ一礼した。会場中から拍手喝采が湧き上がる。


私は唖然としながら観客席の方を眺め、そしてハッと意識を戻してステージ裏へと戻る。スタッフの方からも絶賛されて有頂天になった。
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