青い星を君に捧げる【弐】
「……昔から俺には望みも、希望もなかった」


全てがどうでもよかったんだ、と私が見上げる彼の表情は寂しげなものであった。右肩を包む彼の指に力が入っているのを感じる。


「初めてだ。なにかを、誰かを望んだのは。守ってやりたいと、ずっとその笑顔を見せて欲しいと思ったのは」


ハジメ様の紡がれる言葉1つ1つが私に宛てたものなのだと考えが至り、途端に顔が熱くなる。


「お父様!!今の一様は聞く耳を持たないようです。行きましょう」


フンと顔を逸らし川瀬様の腕を引いて座席に戻る綾乃様は、双眸を細めて冷ややかな視線を私だけに送った。


「すまなかった。疲れただろう、先に百合の宮へと帰ってろ」


「お気遣い感謝します。今宵、お待ちしておりますね」


ぺこりと浅い礼をすると右肩にかかっていた重さは消え、ハジメ様は催しが続く会場中央へと戻って行った。


好奇の目が絶えない中、私は藤の間を後にした。


𓂃◌𓈒𓐍


「月見酒とは風情のあることをしているな」


ジャリジャリと庭石を踏み歩く音と共にハジメ様は姿を現した。服装はさっきとは打って変わり、いつも通り浴衣を着崩している。


「今日はお疲れ様でした」


この宮をぐるりと一回り白百合が育っているが中でもこの庭に面した縁側からは月が綺麗に見えている。
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