青い星を君に捧げる【弐】
《side.本郷波瑠》

青蝶との飲み会の後、慎に連絡したけれど留守電に切り替わるのみだった。折り返しもない。…忙しいのかな。


10月25日に抗争があることは教えてもらったものの、青蝶のメンバーに聞いても彼方たちに電話した時に聞いても場所までは教えてくれなかった。


前日になった現在、私は青蝶たちと会員制のバーのさらにvipエリアに身を潜めていた。


「ここは安全だから明日までまあ楽しもうや」


壁沿いのソファに座ってスマホを見つめる私に気を遣ってか真希さんが言った。それでも私がここを離れないと分かればお酒を持ってどこかに消えてしまった。


その時スマホが震え出した。


『着信 藤野佑真』


息が詰まった。どうして…?震える指先で画面をタップした。


『○○市旧製紙工場に来い』

「……誰なの」


声は完全に彼のものではない。女性の声だった。沈黙が続いたが、何も答えることなく電話は切れてしまった。折り返すが出る気配はない。


○○市旧製紙工場…検索してみればそれは確かに存在していた。


真希さん、青蝶、青龍のみんな…ごめん。私、行かなくちゃ。


私はスッと気配を殺して、部屋を出る。足早にバーも出て大通りでタクシーを捕まえた。5分ほど経った時に真希さんと慎からの電話が交互にかかってくるようになった。


ごめんね、心で謝りながら電源を落とした。

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「ここからは車が入れないから歩くしかないかなー。道なりに進めば旧製紙工場だけど…こんな時間に大丈夫かい?」


タクシーの運転手のおじさんは心配そうにルームミラーで私を見た。確かに真夜中だし、さっきから街灯はないから真っ暗。


「ご心配ありがとうございます。ここから歩いて行きますね」


お金を置いてタクシーのドアを閉めた。スマホの明かりを頼りに舗装されていない道を進む。


遠くで野犬が吠える。人が侵入してきたことに反応してカラスが鳴く。


しばらく歩けば、どんよりとして人の気配はまるで感じられない古びた建物が姿を現した。窓はほとんど割れていて、そこから静かに中に入った。


警戒しながら廊下を進むと開けた場所に出る。きっと昔は大型の機械を置いていたのだろう。

タクシーの中で入手した複雑なマップを見てみるかと視線をスマホへと下げたその瞬間、背後からの殺気を感じ振り返りながら足を振り上げる。
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