青い星を君に捧げる【弐】
《side.久我杏里》

「彼方、あの兄弟おそらく“元宮兄弟”だ」


「元宮兄弟?」

俺たちより先をヒールを鳴らしながら行く青髪の兄弟を見て思わず舌打ちする。よりにもよって火天に彼らがいるなんて想定外だった。


「片方だけでも曲者だが二人揃えばツキに次ぐ強さだと言われてる。ただ…今までそこまで敵視されてこなかったのは彼らがどこの族にも属さなかったからだ」


「じゃあ今になってなんで…」


「とにかく気をつけろ」


元宮兄弟が肩を並べて追いついた俺たちと向かい合う。確か髪が長い方が兄で、短いのが弟だったか。弟の方がストレッチをしている。


「こんな奴らさっさとノして総長のとこに戻ろうぜ、兄貴」


「かぁいい弟の望みだからな、さっさとくたばれ」


瞬きして次の瞬間には隣に立っていたはずの彼方がコンクリートの壁まで飛ばされていた。


「彼方!!!!」

速い、速すぎる。急所は意図的に外したのか彼方はすぐに立とうとする。


「人の心配してる場合じゃないぞ」


耳元で呟かれて気付いた時には遅く、元宮弟からタックルを受けて彼方同様に俺も壁まで飛ばされる。


「ガッ!!」


くそいてぇ。今まで対峙してきた相手なんて比にならないほどの異次元の強さ。コンクリートの床についた指がガクガクと震えてるのに気付いて、隠すために指を握り込む。


「隠さなくてもいい。それは人が圧倒的な強さを目の前にした時の本能だ」


片膝をついている俺の正面に元宮兄がしゃがんで顔を覗き込んでくる。

顎を掬われそうになった時、彼方いた方から大きな空気の変化を感じて背にしていた壁にギリギリまで身を捻る。


「あっぶね」


鼻先に勢いよく脚が振り下ろされ危うく彼方の蹴りに巻き込まれそうだった。元宮兄にあたっていればよかったが、弟の方が兄の肩を引っ張ったようだ。


「杏里、行くよ」

「…おう!」


痛みなんか無視して立ち上がった。とにかく今は目の前にいるこいつらをどうにかしないと。


元宮兄弟は慌てたように構える。


手前にいる元宮兄に拳を振る。元宮兄が避けて兄弟を分断したところに彼方が元宮弟へと攻撃を仕掛けた。


どれだけ攻撃をしても元宮兄はのらりくらりと愉快そうに避ける。拳も脚も当たることなく空を切る。


もっと速く。必ず隙ができるはずだ。血液がいつもの2倍以上速く巡っているように体が熱くなる。
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