青い星を君に捧げる【弐】
さっきまで一定の距離で離れていたはずの元宮兄が一瞬のうちに俺の懐に入る。


そして特攻服の襟部分と肘あたりの袖を掴む。突然元宮兄が視界から消えて、自分の視界もぐるりと変化する。


_____これは…巴投げ!?


柔道技なんて、反則だろ。


受け身を上手くとることが出来ずにコンクリートに打ち付けられた。ギリギリの思考で首を曲げて頭だけは守る。


そのまま休む間もなく元宮兄は絞め技に移る。腕の激痛を気にして絞め技から逃げることが出来なかった。


「まともな受け身取ってないから、肘脱臼してそーだね」


首を締められ頭に酸素が届かない。彼方は……と締められた首を解放するようにもがきながら横に視線を送れば、元宮弟によって気絶させられたあとだった。


「お前らが次起きた時には青龍がなくなった後だ。じゃあな」


僅かなに開いていた目に元宮兄弟の笑った顔が焼き付く。そこで俺の世界は暗転した。


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《side.本郷波瑠》

長い夢を見ていた気がする。私が波瑠になったあの日の記憶を。

「ん…」

徐々に視界と思考が私の元に戻ってきてクリアになっていく。体に伝わる冷たさ。コンクリートの床に私はそのまま転がされていた。


腕と足が硬く拘束されており、縄をどうにかしようと手を動かしても叶わなかった。せめて寝ているのはよくないと思い足と体を芋虫のように動かして壁まで移動した。


____ガチャ


まるでタイミングを見計らっていたかのようにドアが開いて何者かが入ってくる。青髪兄弟ともう一人いた女のシルエットと一致した。


明かりの元に歩みを進めてやっとその顔が見れた。歩く振動で左右に揺れるクリーム色の髪。見間違えるはずがなかった。私の世界が再び色づいた時に始めに捉えた色彩。


____リリィ、君の幸せをずっと願ってる


ガーネットのような輝く瞳。全てが重なって見えた。彼女は……ああ、そうか。ずっと感じていた違和感が点と点が繋がるように、パズルの最後のピースが収まるように、ストンと落ちた。


「……葵ちゃん、なのね」


藤野葵ちゃん。藤野佑真の妹。私の記憶ではもっと小さかった。あれからそれほど時は経ったのだ。


最後にあったのは確か彼の…。私はこの先どうやって生きていけばいいのかわからなくて虚な意識で過ごしていた時。


彼の電話番号で電話をかけられたのは、彼のスマホを持っていたから。朧月の姫が私だと知っていたのも、全部私が昔葵ちゃんに教えたこと。
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