青い星を君に捧げる【弐】
「火天で動けるのはもうお前ら3人だ。もう降伏してくれ」


慎は無駄な争いを望まない。たしかに数は青龍側が有利である。火天が勝つ未来は見えない。


「っは、あははは!!!!バカ言ってんじゃないわよ」


彼女はまるでスポットライトが当たってステージ上にいるようにくるりと手を上げて回った。火天の特攻服が揺れて、裾の炎柄が本物のようだった。


「勝つとか負けるとか私にとってどうでもよかったのよ。私はこの女が絶望に満ちた顔で惨めに泣き喚くところが見たいだけ!!」


「……波瑠を返せ」


「あなたたちは何も知らないからそう言えるのね。この女は隠すのが上手いから」


足早に葵ちゃんが近づいてきたとき、兄弟に掴まれていた腕が離された。やっと自由になったと思った矢先、さっきのように顔を殴られる。


支えを失った身体は地面に落ちた。打ち付けられた衝撃で咳き込むと血が流れる。何度も無抵抗に殴られ、口内はとっくに鉄錆の味で満たされていた。


私らしくない、白虎のみんなにこの光景を見られたら笑われるかな……。でも今私の視界にいる青龍のみんなは必死にこっちを見て抵抗しろと声を張り上げている。


冷静な鳴海さんもあんな顔するんだ。慎も剣人くんもあちこち怪我してそう。お願いだからこれ以上怪我しないで欲しい。


私はどれだけ傷ついたって構いやしない。今の私は月桂樹じゃないから…負けたっていい。


痛みも怪我も全て私だけで十分。慣れているもの。痛みはいつか癒えていく。だから大丈夫。


大丈夫だから、だからみんな…そんな表情(カオ)しないで。



「知りたいでしょ?この女の秘密を!!!」



「鳴海!剣人!」


「はい!」「あいよ」


葵ちゃんの脚が地に伏せた私に迫る。鳴海さんと剣人くんが元宮兄弟、慎が葵ちゃんの方へ一斉に走り出す。


間一髪のところで彼女の動きを止めた慎。そして葵ちゃんの助けに入ろうとした元宮兄弟を鳴海さんと剣人くんが間に入る。


「この女は私のお兄ちゃんを殺したんだよ!!!死ぬとわかっているあの戦場(ジゴク)へ送ったッ」


みんなの荒い息遣いが止まる。その場が静まり返って凍りつく。だれかの吐息が漏れたような音がやけに大きく聞こえた。


どうなっても構わないと思って動かしていなかった指が無意識に地面を掻く。


「……ゃ……て」


「その上親に見捨てられている!!」



「……やめ、て」


「お前を愛してくれる人はもういない!!お前は生きている限り人を傷つけることしかできねェんだよ!!??」


視界が、心が闇に飲まれる音がする。制御できなくなった感情が思考回路を飲み込んで、正常な判断ができなくなる。
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