青い星を君に捧げる【弐】
「この女の正体は!!?「____いい加減にしろッ!!」」


空気が……震えた。


目をギラつかせた慎は葵ちゃんを睨みつける。こんな彼を私は初めて見た。


「波瑠。俺は伝えたはずだ、お前を守りたいからここに置いたって」


「……っ」


あれは狂乱との抗争が終わった後。慎と2人になった時に言ってくれたこと。



「波瑠さん!!オレもあなたに助けられた!あなたは人のために戦える人や!!」


剣人くんも慎に加勢するように声を張り上げる。



「______波瑠」


扉の方に肩を貸し合ってふらふらと中に入ってくる彼方と杏里がいた。片方の腕をだらりと下げたままの杏里は言葉を続ける。


「波瑠は俺と明日歌を救ってくれた。お前の言葉が背中を押して、俺は進めたんだ。勝て、波瑠。______頑張れ!」



1度飲み込まれた意識が急浮上する。燃え踊るように熱くなった。私の変化に気づいた葵ちゃんは嗤う。痛む体に力を入れて立ち上がった。口の端についていた血を手で拭う。


「……頑張れ、波瑠」


慎はそばにいた葵ちゃんが動くのを止めることをせず、言葉だけを紡いだ。向かってくる彼女の腕に力が入った。


ぎりぎりで回避し、顔に風が掠めた。ずっと受け入れてきただけだった私が避けたことに驚いた葵ちゃんは2撃目が遅れる。



「ありがとう、葵ちゃん。また会いに来てくれて」


反応しきれていない彼女に素早く近づくと、強くそれであって優しく抱きしめた。葵ちゃんの身体が強ばったのが伝わる。


「離して!!?」


暴れて腕を解こうとされるけど、決して離すつもりはない。1度彼女から目を背けてしまった、だけどもう……逃げない。


「私も!!!彼の最期には立ち会えなかった!!!」


「……!!」


涙が落ちて、葵ちゃんの特攻服に染みを作った。あの時の悔しい思いがぶり返し、奥歯をギリッと噛み締めた。


「彼が一瞬だけ意識を取り戻した時にそばに居た人が言ってた。まるで日常の中にいるように笑って『ほんとうに幸せだった』って」


小さく震えた彼女は暴れることをやめて力なく私の胸に縋り付くように膝を折る。



「……ぁあ……ヒック…うああっ」


ずるずると下がっていく葵ちゃんの肩を支えるように私も下がって、やがて地面に膝をついて静かに泣く彼女の背中をさすった。


「私をこの歳まで生かしたのは間違いなくあなたのお兄ちゃんだよ。彼がいなかったらとっくに私は死んでた。藤野佑真は私を救ってくれたヒーロー」

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