青い星を君に捧げる【弐】
《side.黒鉄慎》

たぶん一目惚れではなかった。本郷波瑠という女の子を知っていくうちにいつの間にか惚れていた。


だから2人で出かけたいと思って俺は彼女を誘った。彼女は俺のことなんてこれっぽっちも視野には入っていないと思う。


それでも一つ仲良くなるということが叶ったら、すぐに次を求めるのがヒトだ。


「よし…」


いつも適当に結んでいる髪を鏡を見ながらそれなりに整える。少しでも意識して貰えるように今日は紳士にスマートに。


そう考えていたのに…


待ち合わせ場所で待っていれば『慎、その周りにいる女の子たちと出かけた方が楽しいよ』なんてふざけたメッセージが送られてくる始末。ふざけんな。


決まり文句のように波瑠の服装を褒めようと口を開いた時に、「…それにしても今日の服装は一段とかっこいいね!!」と先を越された。


いや、でもそれに続いて…と思ったのに彼女はスルスルと話題を変える。こうして俺の計画は出鼻からくじかれた。スマートさの欠片もねえ。


出かけ先は動物園に決めていた。ここ最近はバタバタと争いごとに巻き込まれて忙しかっただろう波瑠のためだ。


彼女は俺が食べたいなと思った物をよく勧める。俺が食べてる間暇じゃないのかとチラリと見れば彼女はにこにこと甘いものを食べる俺と動物を交互に見ていた。


「……なんか見たいやつないのか?」


そう言って彼女が広げているマップを覗き込んだ時、隣から盛大な笑い声が耳に届く。なにがそんなに面白いんだ。


「?なんかあったか」


「ぷっ、あはは!!今日の慎、なんだか子どもみたい!ふふっ、鏡みてみな」


波瑠の持つ小さな鏡が俺を映し出すと、口の端っこに先程まで食べていたチュロスの砂糖がついていた。俺のばかやろう。ダメダメじゃねえか。




動物園を出てコーヒーショップでドリンクを注文した。波瑠に頼まれておすすめの新作のドリンクにカスタムをしてやる。


近くに静かな公園があることは知っていたのでそこに誘う。少し木々が紅くなってきていると言うと、楽しみと波瑠は返した。


「……火天の総長の兄貴とお前の関係はなんなんだ?」


火天との抗争の中登場してきた名前。ここ数日気になっていた。俺の予想ではきっと…


コーヒーカップを掴んでいた波瑠の指に力が入っていた。聞かれたくないことなのか。それでも……俺は彼女の口から聞きたかった。


「…藤野佑真とは付き合ってて、今も好き。でも彼は3年前に亡くなった」


3年前に亡くなった男がまだ好き……。ずん、と心が重くなる。ああ、頭がいたい。
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