青い星を君に捧げる【弐】
「大輝さんはいつから彼方といるんですか?」


彼方の昔の話を聞いたことがなかった。彼は意外に自分のことを語ることはない。


『彼方とは彼が5歳の時に会いました。公園で一人で座っている彼方に当時高校生だった僕が話しかけたんです』


「彼方が一人って…今じゃ考えらんねぇな。こいつどっちかっていうと友達とか巻き込んで遊ぶタイプだろ」


『当時の彼方は、心を閉ざしていました。信頼できる人がいなかったんです。無条件で信頼できるはずの親とも…』


そこまで読んだ時に彼方が身じろいで、みんなの視線はスマホから彼方へと変わった。ピクリと動いた瞼。


「かなた?わかる?」


そっと目が開いてぼーっと天井を見つめる彼方が顔を動かして私をとらえた。


「は…る、はるだ」

ふにゃりと顔を綻ばせる彼方に皆安堵する。ナースコールを押してすぐに看護師と医者が来て大輝さんだけを残して私たちは病室を出る。


「杏里…俺たちは一旦倉庫に戻るぞ」


「了解、じゃあ波瑠あとは任せるよ」


「うん。なんかあったら連絡するね」


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《side.佐久間彼方》
慎たちが出ていって、僕と大輝さんそれから医者たちだけになる。


「うん、今日は入院して。明日の検査で異常なければ退院しようか」


『ありがとうございました』


大輝さんは看護師と医者にスマホを見せてお礼を言う。僕は寝たままその光景を見ていた。忙しそうに医者たちが出ていけば必然的に僕と大輝さん二人きりになる。


何となく、話すのが気まずくて小さく手を動かした。大輝さんと初めて会ってすぐに教えてもらった手話。


『心配かけてごめんなさい』

ゆっくりと手を動かせば、大輝さんは声さえ出ていないものの笑いながら近くの椅子に座った。


『お前は僕の唯一の弟子なんだから。心配くらいかけていいんだ』


『それに関係ない争いに巻き込んで、その上助けてもらった』


もういいんだ、と言うように僕の手を掴んで布団の中にしまうように促した。


『じゃああれが僕の師匠なんだってお友達に自慢してよ、それだけで十分』


寝なさい、と言われまだ言いたいことがあったが目を閉じた。


「次起きた時にいなくなってたら怒るからね」

_____ぽんぽん


わかってるよ、と言うように布団の上から優しくたたいてくれた。
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